唇を濡らす冷めない熱
それからの数日は忙しかった。梨ヶ瀬さんに残業を頼まれても何かと理由を付けて短時間で済ませてもらい、慌てて眞杉さんとの待ち合わせに向かう毎日だった。
恥ずかしがる彼女を何とか説得してオシャレなショップへと入り、眞杉さんに似合う服をチョイスしてもらって……
彼女の分厚い瓶底眼鏡も何とか出来ないかと眼科にも行ったし、美容室も人気の所をデートの前日に予約しておいた。
「ここまでしなきゃいけないんでしょうか? 私みたいな地味子がこんな事したって……」
前日になっても、何度もそう繰り返す眞杉さんに……
「鷹尾さんと両想いなのに、自信がないだけで諦めるなんて間違ってます! それにもう眞杉さんは別人みたいに綺麗なんですから」
私は梨ヶ瀬さんとどうにかなる気はないけれど、眞杉さんと鷹尾さんには幸せになって欲しい。鷹尾さんだって長い片想いをしてきたそうだし、そろそろ報われてもいいはず。
幸せに手を伸ばせる時には必死になるくらいが良いんだと、二人で笑って話しながら待ち合わせの場所に向かう。
待ち合わせ場所にはすでに背の高い二人の男性が立っていて、周りの女性の視線を集めている。
「横井さん、やっぱり帰りたくなってきました……」
「分かるわ、眞杉さん。今私も同じ気持ちだもの」