唇を濡らす冷めない熱


「乗りましょうよ。それとも梨ヶ瀬(なしがせ)さんは私一人でジェットコースターの二人乗りシートに座らせる気ですか? 眞杉(ますぎ)さんと鷹尾(たかお)さんは仲良く並んで座るのに」

 わざとらしくそう言えば、少し迷う素振りを見せる梨ヶ瀬さんが見れた。そんな彼の様子に気分がますます良くなっていく、ここで調子に乗ってはいけないと分かっているのに止められない。
 別に一人でも乗れないことはないけれど、せっかくだから怖がる梨ヶ瀬さんを見せてもらおうじゃない。

「……手ぐらいなら、繋いであげてもいいですよ? 一緒に乗ってくれるなら」

「ズルいね、今日の横井(よこい)さんは」

 何とでも言ってくれていいですよ? せっかくのチャンスを無駄にはしたくないですもん、私だって。悔しそうな梨ヶ瀬さんもカッコいいですね、美形ってどんな表情でも素敵に見えるから憎らしい。
 喉まで出てきた本音を飲み込んで、笑顔で梨ヶ瀬さんに手を伸ばす。この手を取ったら私の勝ちは確定したようなもの、そんな余裕すら見せることが出来た。

「覚えていてよ、俺はやられっぱなしは好きじゃないんだ」

「忘れちゃいます。私は今、最高に気分が良いんで」

 なんて、私の手を取った梨ヶ瀬さんをグイグイとジェットコースターの入口へと引っ張っていく。彼の弱みを見つけた喜びでいっぱいで、私はすっかり上機嫌になってしまっていた。
 意外とすいていたジェットコースタ―、シートに並んで座っても梨ヶ瀬さんは私の方手を握ったままだった。そんな様子がちょっと可愛いと思いながら、私はそのアトラクションを楽しんだ。


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