唇を濡らす冷めない熱
「大丈夫ですか、ベンチで少し休みます?」
私の後ろを青い顔でフラフラと着いてくる梨ヶ瀬さんが心配になってきてそう声をかける。私はジェットコースターと怖がる梨ヶ瀬さんのおかげでとても楽しめたが、彼はそうではないだろうし……
運よく近くに二人で座れるほどのベンチが空いている、私はそこへと梨ヶ瀬さんを引っ張っていった。
「……お水、買ってきましょうか?」
私の肩に頭を置いて目を閉じたままの梨ヶ瀬さんにそう問いかける。肩を貸してほしいと頼まれたから仕方ないとはいえ、恋人のような距離にさすがに心臓が落ち着かなくなる。
少しでも離れる理由を探してみるが、梨ヶ瀬さんは小さく首を振るだけで何も言ってはくれない。チラリチラリとこちらを見る人の視線も気になるし、そろそろ離れたいな~なんて思っていると……
「……今、俺の事を情けない男だと思っているでしょ?」
「別にそんな事はないですよ、人間一つくらい欠点があった方が可愛いってものです」
これは本音だ、いつも余裕綽々の梨ヶ瀬さんのこんな姿を見られるのは少なくとも今は私だけ。こうして拗ねたような言葉も、今は憎めない気がするし。
「可愛いとか言われてもぜんっぜん嬉しくないけど、もしかして横井さんは可愛い男がタイプ?」
「さあ、どうでしょうね? 考えた事も無かったけれど、意外とありかもしれませんねぇ」
ぼんやりと空を見ながらそう答えてた、その隙をついて梨ヶ瀬さんの腕が私の腰に回っていると気付きもしないで。
「じゃあさ、今の俺なら横井さん的にはアリなんだ?」
「え……?」
そう聞き返した瞬間、腰をグンと強い力で引き寄せられてそのまま梨ヶ瀬さんの胸の中へと倒れ込む。
……え? いったい何が起こったの?