唇を濡らす冷めない熱
触れる瞬間にふわっと香る、梨ヶ瀬さんの爽やかなシトラスの匂い。目の前に景色が一気に変わったことで私は上手く反応出来なかった、梨ヶ瀬さんの行動に……
チュッと音を立て何かが額に触れた感触、もしかして今のって?
「スキあり、だよね。自分を狙っている男といる時に、そんな無防備でいる横井さんが悪い」
「な、何するんですか! 具合が悪そうだから心配してあげたのに」
さっきまで青い顔をしていたはずなのにこんな事をする余裕があるなんて、と梨ヶ瀬さんを見れば彼は涼しい顔をしていて。え? まさかこの人……
「もしかして、私を騙したんですか? 絶叫系が苦手なんてのも、全部嘘だったり?」
「さあ、どうだろうね? 想像に任せておこうかな、その方が横井さんの反応が面白そうだし」
絶対私を騙したんでしょ、梨ヶ瀬さんは。さっきまでとは違うケロリとした話し方に、私の頭に血が上りそうになる。グググっと両手で梨ヶ瀬さんの胸を押して離れようとするが、彼の腕ががっちり背中に回っていて少しも距離が取れない。
「ふざけないで下さいよ、無防備になったのは梨ヶ瀬さんがそういう事しないと思ったからで……」
「うん、意外と簡単に騙されてくれたから俺も調子に乗っちゃったよね。でも具合が悪いからと男が気になる女性に手を出さない理由にはならないし?」
屁理屈! そう言うの屁理屈っていうんです! もう一回くらいは殴ってやってもいいんじゃないかって思いそうになる。それくらい今は梨ヶ瀬さんが憎らしい。