唇を濡らす冷めない熱


「だからって、勝手にキスするなんて!」

「唇はさすがに合意の上でしたいから額にしたんだけど、もしかしてガッカリさせてちゃった?」

 なんでそうなるの⁉ どう考えても勝手にキスなんかするなって意味にしか聞こえないはずでしょう、こんな事でも自分の良いように持っていってしまう梨ヶ瀬(なしがせ)さんに感心しそうになる。

「ガッカリなんてするわけないでしょう、それに私には梨ヶ瀬さんと唇でキスする予定もありません!」

「俺の予定にはあるけれど?」

 シレッとそう言う梨ヶ瀬さんに唖然となる、何となくこの人は本気でそう言っている気がしたから。だからって、普通そういう事を堂々と口にしたりする?

「勝手に私を巻き込んで予定を立てないでくださいっ!」

 他の人が巻き込まれる分には構わないが、それが自分となるとそうはいかない。どんなアプローチを受けても、私には梨ヶ瀬さんと付き合う気なんて無いのだから。
 でもそれは梨ヶ瀬さんも同じく、私と付き合うためには手段を選ばない気らしい。

「巻き込ませてくれなきゃ、俺が困る。だって横井(よこい)さんちっとも俺の方を向いてくれてないでしょ?」

 ……そんなこと思ってないくせに、嘘つき。本当に私が梨ヶ瀬さんをどうとも思ってないと感じてるのなら、こんな手は使わないはず。
 私の心がほんの少しだけ揺れてるの、本当は気付いてるんでしょう?


< 132 / 222 >

この作品をシェア

pagetop