唇を濡らす冷めない熱
「違うの、これはそう言うのじゃなくてね。ちょっと梨ヶ瀬さんの具合が悪かったから休ませてただけで……」
いや、こんな事を言ってもきっと誤魔化していると思われるに違いない。それとも照れ隠しと生温かい目で見られるのだろうか? なんせ、今の梨ヶ瀬さんは私にキスをした上にピンピンしているのだから。
いつの間にか私の横に立っている梨ヶ瀬さんは涼しい顔で二人にさっきのアトラクションは楽しかったと話している。やっぱり絶叫系平気なんじゃないの!
あれほど梨ヶ瀬さんの思い通りになるもんかと気合を入れたのに、簡単に騙され手の上で転がされていたと思うと地団太を踏みたくなる。
そんな私に追い打ちをかけるように鷹尾さんが……
「心配しなくていいよ! 二人の事は会社では黙っておくから。こいつの取り巻きも面倒そうだし、俺たちが協力するからさ」
「へえ、頼もしいな。そんな事を言って、いったいどんな見返りを考えているのやら?」
そんな風に楽しそうに話を進める鷹尾さんと梨ヶ瀬さんにストップをかける事も出来ないままの私。後ろから心配そうに私に声をかけてくれる眞杉さんに二人を止めて欲しいと頼もうとしたが、彼女の誤解もやはり解けてはおらず……
「大丈夫です、私も全力で二人の見守り隊を務めさせていただきますから!」
……そんな隊は今すぐ解散して欲しい。どうせメンバーは眞杉さんと鷹尾さんだけなんでしょうし。
結局……この二人を良い感じにするはずだったダブルデートは、私と梨ヶ瀬さんの関係を誤解させるだけのものに変わってしまっていた。
いつの間にか見守り隊として協力することにした眞杉さんと鷹尾さんは、私の心配をよそに勝手に仲を深めていたようだけれど。