唇を濡らす冷めない熱
教えない、その願い


『へえ、あんたがダブルデート? それも相手は新しい課長なんて、意外とやるんだな』

「なんでそうなるんですか、私はただ会社の同僚の恋を応援するためにですね……」

 遊園地から帰ってきてお風呂を済ませて待ったりしているところにかかってきた電話。無視しようと思ったのに、あまりにしつこくてつい出てしまった。
 そんなスマホの向こうでは、ある人物がムキになる私を楽しそうに笑ってる。

「そうやって私を揶揄うために電話をかけてきたんですか、伊藤(いとう)さんは。特に用が無いのなら切りますよ?」

 電話の相手は親友の紗綾(さや)の元恋人の伊藤さん、何だかんだと問題を起こして今は海外の企業に勤めていると聞いている。そんな彼がこうやって頻繁に電話をかけてくるのは謎なのだけど。

『用が無い訳じゃない、ところで紗綾はあの男と今も上手くいってるのか?』

 ほおら、やっぱり心配なのは元カノの紗綾の事。だいたい分かっていたけれど、私からそうやって彼女の事を聞くほどまだ未練があるのだろうか?

「上手くいってますよ、もう伊籐さんの入り込む隙間は一ミリもありません。早く新しい恋でも探すといいですよ」

『嫌な言い方するな、あんたも。まあいい、二週間後に一度帰国する予定なんだ。一緒に飲みに行こうぜ』

 ……? 飲みに行く、誰と誰が? いやでも、私と伊藤さんがそんな事をする必要があるとは思えないのだけど。


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