唇を濡らす冷めない熱
「あの男性が、私を……ですか?」
梨ヶ瀬さんの言う事が信じられずに、もう一度確認してみる。男性は確かにこっちを見ているように見えなくもないけれど、何故よりによって私なのか?
だって、少なくとも私にはその男性に見つめられるような心当たりはなかったから。
「彼のあの様子だと、今日が初めてって感じじゃなさそうだけど? 横井さんて結構そういうとこは鈍そうだもんね」
はあ? 私は今までずっと鋭いって周りの人から言われてきましたけど! そういうとこがどういうとこか知りませんが、勝手に私の事を分かった気にならないでくれません?
そう大きな声で言い返したいのに、彼が「静かに」と言うように私の唇に人差し指をくっつけたりするから何も言えないでいる。
当たり前のように私に触れるのはどうしてなんです? 想像してたよりも温かい彼の指先に私は戸惑う、梨ヶ瀬さんの指先はもっと冷たいんじゃないかって思ってたのに。
「…………じゃないの?」
「えっ、あの……なんて?」
梨ヶ瀬さんの熱に集中してしまって彼の話をちゃんと聞いていなかった。そんな私を梨ヶ瀬さんはちょっと驚いたような顔で見てたけどすぐにニッコリと笑って……
「ね、麗奈。俺の話はちゃんと聞いて……?」
どうして私の事をいきなり名前で呼ぶんです! 嫌がらせかなにか分からないけれど、普段呼ばれない名前を異性に呼ばれ顔に熱が集まる。