唇を濡らす冷めない熱
「会わないで欲しいって言ったら、きいてくれる?」
「それは無理ですね、これは私と伊藤さんの約束なので」
梨ヶ瀬さんの気持ちが分からないわけじゃない、でも私にとって伊藤さんとの約束も破りたくないものだった。多分伊藤さんは紗綾へのお祝いを私に渡すためだけに帰国したんだと思う、そんな彼の気持ちをないがしろには出来ない。
「麗奈は何一つ俺の思う通りにはならない、それが魅力でもあるけど。それでも時々俺の腕の中に閉じ込めてどこにも行けないようにしたくなる」
「……梨ヶ瀬さんらしくない、物騒な発言ですね」
滅多に見せない梨ヶ瀬さんのダークな部分にちょっとだけ触れた気がした。それでもそんなに悪い気はしない、いつもの私なら束縛なんて絶対嫌なはずなのに。
「嫌いになる? 余裕なんてもう無くなってるのに、どうしても君の手に入れ方が分からない」
嫌いになれないから困ってるんじゃないですか。上司としては優秀だけど、本当は裏表があるし策士で本当に困らせられてるのに。
多分、これから先もきっと嫌いにはなれない。
「もう少し、待ってくれませんか? 私も自分と向き合って答えを出したいんです、いい加減な気持ちでは梨ヶ瀬さんの気持ちに応えたくないから」
「麗奈……」