唇を濡らす冷めない熱
いつまでも中途半端な関係ではいちゃいけない、これ以上梨ヶ瀬さんからのアプローチを躱し続けることも難しい。それなら私自身がちゃんと考えて答えを出すしかない。
もしその出した答えによっては、転職も考えた方が良いのかもしれないけど……正直今の仕事はやりがいがあって大好きだから、辞めたくはない。
「社内恋愛って私、嫌いなんですよね。上手くいかなかったときが悲惨だし、気まずくてやりにくくなるでしょう?」
「付き合う前から別れの事を考えるのは止めてくれる? 俺はそんなつもりはないんだから」
梨ヶ瀬さんらしい言葉に私は少しだけホッとする、ここで同意されていたらすぐにお断りするつもりだったし。それでも私がなぜ梨ヶ瀬さんの想いに応えようとしないのかは何となく伝わったはず。
「……麗奈とは将来の事も考えたお付き合いをしたいんだよ、俺は」
「まさかのプロポーズですか? まともな告白もされてなかった気がしてたのに」
予想しなかった梨ヶ瀬さんの言葉に心が揺れる、心臓をギュッと掴まれているような気がした。何となくこのままここにはいられないような気がして。私は落としたバックを拾い梨ヶ瀬さんを押しのけると、そのまま玄関の扉を開けて逃げ出してしまった。
全力で走ってマンションの傍で停車していたタクシーに飛び乗ってそのまま家へと帰りつく。その日、梨ヶ瀬さんからは電話もメッセージも送られて来ることは無かった。