唇を濡らす冷めない熱
「……もしもし、何かありました?」
やはり風邪をひいてしまったのだろう、出てきた声はかなりガラガラですぐに体調が悪いことがバレてしまう気がした。
解熱剤を飲んだはずなのに、もう効果が切れたのかはあはあと吐く息も熱い。
『横井さん、その声……! 体調が悪いって本当だったんだ、なんで俺には言ってくれなかったの?』
梨ヶ瀬さんの言っていることの意味が分からない。どうして私の体調が悪いことを知っているのかも、梨ヶ瀬さんに連絡しなかったことを責められる理由も。
私は発熱したことを伊藤さんにしか伝えていない、それなのにどうして梨ヶ瀬さんが電話をしてくるの?
「別に、大したことないですし。明日は日曜だから寝てれば治りますよ」
本当は凄く具合が悪くて、今にもここに来て欲しいと言い出しそうだった。でもそんなのは私がしていい事じゃない、こんな時だけ都合よく甘えるなんて出来ない。
そんな意地だけを頼りにいつもと変わらないように強がってみせる。
『……くから』
「え? なんて言いました、梨ヶ瀬さん?」
聞き取れなかった言葉をもう一度頼もうとしたのに、その後に聞こえてきたのはプーッ、プーッ……という機械音だけだった。
どうやら私はとうとう梨ヶ瀬さんにも愛想をつかされてしまったらしい。その事が思ったよりショックだったのか、私はそのまま力なくベッドへと横になった。