唇を濡らす冷めない熱
「そう言うのならば全力で拒否ってよ、あんな抵抗じゃ俺も止まれない」
「……私は病人なんですけどね?」
元気な時ならまだしも、不調の時に襲っておいてよく言うなと思う。抵抗したくてもまともに出来ないことくらい梨ヶ瀬さんなら分かってるくせに。
もしそこまで計算してここに残っていたのだとしたら、この人も随分と悪い男なのだろう。
「お腹空いてない? おかゆでも作ろうか」
キッチンの方へと視線を移して梨ヶ瀬さんはそう言った。
「露骨に話題を変えてきますね、さっきまで全く病人扱いしてくれなかったくせに」
確かにお腹は空いているが、そう簡単に流れを変えられてしまうのも癪なのでわざと話を元に戻そうとして見る。梨ヶ瀬さんはいつも通りに微笑んでるように見えるが、ちょっとだけ口元がヒクついていて面白い。
だけどそんな視線を感じ取ったのか、彼は「キッチン借りるね」とだけ言うとさっさとその場から逃げていってしまった。
それにしても……
「とうとうキス、しちゃったなあ……」
嬉しいともガッカリとも言えない、複雑な心境。まだ付き合ってもいないのに、結局こうして触れあってしまったのだから。
これから先、梨ヶ瀬さんとどんな関係でいればいいのか考えると頭が痛かった。