唇を濡らす冷めない熱
信じない、そんな愛
「……ええ、もう大丈夫です。じゃあ、今日の七時に駅前で」
用件のみの電話を終えて、私はそのままシャワーを浴びにバスルームへと向かう。
さっきの電話の相手は伊藤さんだ、熱は大丈夫かとわざわざ心配して電話をくれた。梨ヶ瀬さんの事について余計な事をしてくれるなと一言注意しようと思ったが、それは今晩直接言う事にする。
熱めのシャワーを浴びて汗を流せばすっきりとして、ぼんやりしていた頭もだいぶハッキリとしてくる。
昨日梨ヶ瀬さんは月曜まで大事を取って休むようにと言ってくれた。そのおかげで熱も下がり体調もずいぶん楽になっている、少しくらい伊藤さんと会っても問題なさそう。
遅い昼食を済ませのんびりした後、準備を済ませて私は伊藤さんとの待ち合わせ場所へと向かった。
「何でもういるんですか、まだ待ち合わせ三十分前ですよ?」
駅の中にあるコーヒーショップに伊藤さんの姿を見つけて、私も店の中へと入る。声をかければ伊藤さんの方が少し驚いているようだった。
「麗奈のほうこそ、随分早く来たんだな? 時間近くになったら出ようと思ってたのに」
テーブルの上に置いてあるシンプルな紙袋、中に入っているのがきっと紗綾に渡したいものなのだろう。もしかしたら伊藤さんは緊張で落ち着かなかったのかもしれない。
そんな風に元カノの紗綾をいまだに想う伊藤さんの気持ちを考えると、少し複雑な気分になる。