唇を濡らす冷めない熱
「麗奈がそうでも俺はそうじゃない、紗綾を幸せに出来るのはあの男しかいないと分かっているから」
伊藤さんの視線がチラリとテーブルの端に置かれた紙袋へと移る。彼の中で紗綾と御堂さんを祝福する、それはもう決定している事だと気付かされた。
今でも愛しているから、そんな紗綾の幸せを一番に考えている。そう自分を納得させるために伊藤さんは離れていたのかもしれない。
「……馬鹿みたいですね、そんな強がり言って。自分が一番幸せにする、くらい言えないんですか?」
「それが出来なかったからな、俺は一度きりのチャンスを自分のプライドで駄目にしたんだ」
伊藤さんの浮気は紗綾を傷付けその心を追い詰めた。その結果、どれだけ伊藤さんと紗綾がどれほど苦しむことになったのかも聞いている。
だから、それ以上はもう何も言えなくて……
「だからかな、麗奈と梨ヶ瀬さんを見ていると上手くいって欲しいなと思ったりして」
「……狡いですよ、そう言うのは」
お互いの気持ちは分かっているのに、それ以上の関係に進もうとしない。そんな私達は伊藤さんから見ればもどかしいのかもしれない。
だから今回も私に確認もせず、余計な事をしたのだろうけれど。
昨日の事について文句を言うつもりだったのに、結局何も言えなくなる。そんな私に伊藤さんは……