唇を濡らす冷めない熱
「その、私にも悪いところはあったと思うので怒らないで聞いて欲しいんですけど……」
この言葉が大きな失言だった事にこの時はまだ気づいてなくて、後ろめたさから梨ヶ瀬さんの表情を見ていなかったのもマズかった。
自分では元カレの取った行動が百パーセント正しいと思っているわけではなかったけれど、どうやら梨ヶ瀬さんには私が元カレを庇っているように聞こえてしまったらしく。
「その言い方だと、麗奈はまだその男を庇いたいくらいには思いが残ってるのかと疑いたくなるね」
「えっ! そういう訳じゃなくて……その、彼はずっと私が悪いんだって言ってたので」
そう、喧嘩するたびに元カレは毎回のようにそう言っていた。悪いのは自分ではなく、彼を怒らせた私なのだと。その時はそうなんだって従うしかなくて、ずっと我慢していたのだけど……
「もしかして、元カレからDVを受けてたの?」
「いいえ、そこまでは。ただ、モラハラ……って言うんでしょうか。元カレの言うことを何でも聞いているうちに、いつの間にか彼の言葉が全てみたいになってて」
いつだって正しいのは自分だから、私は彼の言うことを聞かなければならない。相手を想う事はそう言うことだと何度も言い聞かされて。
甘えるような彼の笑顔もいつの間にか、私に命令をする高圧的な態度へと変化していた。
……だけど彼をそんな男に変えてしまったのは、きっと私なんだ。甘やかして思い切り我儘を言って欲しくて、そんな彼の全てを受け止めてるんだって勝手に勘違いしていたから。