唇を濡らす冷めない熱
「そんなに好きだったの、元カレの事が。君がそこまで抑えつけられて、意見を言えないなんて正直想像出来ないな」
「そうかもしれませんね、私もそれなりに梨ヶ瀬さんにだけは冷たくしてる自覚はあるんで」
元カレの事を好きだったかという問いかけに、私は曖昧に答えた。それほどまでに好きだったかなんて、思い返せば自信が無くて。ただ誰かに頼られることや必要とされることに、異常なまでに私が執着していただけかもしれない。
その理由は何となく自分で予想出来るけれど……
「ねえ、それは俺の事が最初から嫌いだから? それとも他に何か理由があるの?」
いつまでも最初の頃の話を出してくる辺り、梨ヶ瀬さんの性格の悪さが窺える。しかも彼はちゃんと分かって言っている、私が彼に冷たく接する理由が別にあることを。
「それを知って、梨ヶ瀬さんはどうするんです?」
「もちろん、そんなのは取り除くよね。俺にとっては麗奈との進展を邪魔する障害でしかないし?」
簡単に言ってくれるが、そうそう上手くいくのだろうか? 梨ヶ瀬さんなら出来そうな気もするが、意外と強引な荒療治になりそうで怖い。
それでも予想を裏切らない彼の言葉に、なんだか気持ちが楽になっていく気がした。