唇を濡らす冷めない熱
「それは梨ヶ瀬さんの一方的な希望でしょう? 私はそんな事、望んでなんか……」
「はっきり否定しないのは珍しいね、そんな言い方すれば俺に付け込まれるだけって分かってやってる?」
もちろん分かってる、分かりたくなくても今まで梨ヶ瀬さんのやり方で十分学んできた筈なのに。どうしてもハッキリとした拒否が出来なくて。
何だかんだで、私も結構彼の事が特別な意味で気になってしまっているみたいだ。
それにしても二人の距離が近い、いつの間にか梨ヶ瀬さんは私を包むように優しくその腕を回している。どう考えても恋人同士のように触れ合えるその近さに、焦らない方がどうかしてる。
「もう少し、離れたりしませんか?」
「しません、俺はずっとこうしたかったから」
間髪入れない予想通りの返事に、私はガックリと項垂れる。物言いは優しいし敵を作らなさそうな穏やかな振りしてるくせに、恋愛に関してはマイペースで強引な梨ヶ瀬さん。
そんな彼の恋愛慣れした様子にちょっとだけ苛つきを感じたりもして、何とも言えない感情を抱えてしまう。だからこその失言だったのかもしれない。
「良いですよね、梨ヶ瀬さんこういう事に慣れてて。私なんて余裕で振り回せちゃいますもんね?」
「……それ、どういう意味?」