唇を濡らす冷めない熱
私の濡れた唇に触れる、梨ヶ瀬さんの指先。幾度となく彼の気持ちを撥ねつけても、決して冷めない熱がそこにはある。
そうやって触れる指先で私の唇を濡らさないで、貴方の指先は冷めない熱を持っているから。その熱で私を狂わせてしまうつもりなんでしょう?
「まだ、捕まってません」
「本当に君って強情だね……こんな時くらい、素直になればいいのに」
何もかもお見通しと言わんばかりのセリフに、余計に意地を張りたくなる。私を素直な女にさせてくれないのは梨ヶ瀬さんの方じゃない、可愛くなくしたい訳ではないのに。
だけど優しく触れる指先が、こんなに愛おしく感じるようになるなんてこの人と出会った頃は想像もしなかった。
「一目嫌い、そう思ったんです。梨ヶ瀬さんを初めて見た時は」
「……へえ? それはまた面白いね、一目惚れじゃないところが麗奈らしい気もするけど」
普通は怒っても良いところなのに、それを楽しむのが梨ヶ瀬さんだと思う。私が彼を嫌っていたことは本人もよく分かっている筈だし、そんな相手を気に入るところもやっぱり変わっている。
それに……
「どこが良かったんです、こんな可愛くない私の」
「何度聞かれても同じだよ? 他の誰が君を可愛くないと言っても、俺にはメチャクチャ可愛く見える。背筋張って強がって、それでいて辛さを見せずに頑張る麗奈を俺だけが甘やかしてあげたいんだ」
……やっぱり変だ、この人は。