唇を濡らす冷めない熱
「元カレの事がちゃんと片付いたら、その時はちゃんと梨ヶ瀬さんへの返事をします。だから……」
もう少しだけ待っていて欲しい、私の中で色んな事を整理出来るまで。こんなにも真剣な気持ちをぶつけてくれてるのだから、私もそれに真摯に応えたい。
もちろんそれは、二人の未来に前向きな意味で。
「焦らすよね、それももう慣れたけれど。だけど嬉しい、やっと麗奈が俺に向き合ってくれたんだから」
「だって、梨ヶ瀬さんが全然諦めてくれないじゃないですか」
こんなしつこい人は私も初めてだった。でも梨ヶ瀬さんは私が嫌がらない絶妙な距離でアプローチを続けてくるから、本気で嫌いにもなれなくて。
優しくされて甘やかされて、大事にされてるうちに完全に絆されてしまったような気がする。好きになったら絶対、私の方が苦労するって思ってたのに。
「今度はちゃんと俺を彼氏と紹介してよね? 伊藤さんが麗奈の彼氏面してるなんて、もの凄く気分悪い」
「伊藤さんにそんな気はないって何度も言ってるのに……」
意外とヤキモチ妬きな梨ヶ瀬さんは、いまだに伊藤さんをライバルだと思い込んでいるようで。それを伊藤さんが面白がってるの、ちゃんと分かってるのかな?
「今夜泊っていっても良い?」
「駄目です、もう用は済んだのでさっさとお帰りください。ではまた明日」
そう言って荷物を持たせて玄関まで押しやり、そのまま扉の向こうへと追い出した。梨ヶ瀬さんが本当にこの部屋に泊まるのはそう遠くない未来なんだと、少しだけ胸をときめかせながら。