唇を濡らす冷めない熱
許さない、その過ち
「久しぶりに、嫌な夢見ちゃったな。梨ヶ瀬さんにも結局は、全部白状させられちゃったし」
スマホで時間を確認しながら、今朝見た夢を思い出す。あの頃の自分の世界は元カレが中心になっていて、それを当たり前の事だと思っていたのは事実だ。
でもこうして別の人に想われるようになって、はっきりとそれが間違いだったことに気付かされた。元カレが自分に与えていたのは愛情や思いやりではなく征服と支配だったのだと。
結局は私を兄の奥さんのような出来る女にして、周りに自慢したかっただけなのだろう。それが横井 麗奈という人間である必要などなかったに違いない。
『昨日はよく眠れた?』
朝一で送られてきたメッセージ、もちろん送り主は梨ヶ瀬さんだ。きっと考えすぎて私が寝れなかったんじゃないかと心配したのだろう。でも、思っていたよりもしっかり眠れた気がする。夢見は最悪だったけれど。
『お陰様で』
『そう? じゃあ今日も職場で会おうね』
……職場は仕事をしに行くところで、梨ヶ瀬さんに会いに行ってるわけじゃないんですけどね。まるで女の子が付き合いたての恋人に送るような内容に、心底うんざりしつつ会社に行く支度を始める。そのメッセージに返信などせず、既読スルーのままで。