唇を濡らす冷めない熱
「おはよう、横井さん」
「おはようございます、梨ヶ瀬課長」
わざわざ私の席まで来てニコニコと横に立つのは止めて欲しい、周りの女子社員の好奇の視線が刺さってきてとても迷惑だ。いつもならサラリとした挨拶で済ませるのに、今日に限ってどうして?
だが昨日の事を思い出せば、心当たりがない事もなく。期待をさせるようなセリフを言ってしまったのは確かに私の方で。
……だからと言って、こうもあからさまだとさすがに困る。
「私に何か御用でしょうか、梨ヶ瀬課長。用が無ければ自分の席に戻ってもらえると、私の視界もスッキリするのですが」
「それ、ちょっと言いすぎじゃない? それじゃあまるで、俺が目障りな存在みたいに聞こえるんだけど」
その通りですが、それが何か? そう口にしないだけ私は梨ヶ瀬さんに優しくなったと思う。正直な話、梨ヶ瀬さんにこんなに傍に居られると私も落ち着かないのだ。
……それなりに意識、してしまうから。
「会社ではいつも通りだね、昨日とは甘えてきた君とは別人みたいだけど」
「口を縫われたくなければ、余計な発言は控えた方が良いと思いますよ? 貴方のその言葉一つで、私の今の気持ちもどう変化するか分かりませんから」
暗に、告白の返事がNOになってもいいのかと脅しをかける。そんな私に梨ヶ瀬さんは「それは困るかな」と小さく囁き、そのまま自分の席に戻っていった。