唇を濡らす冷めない熱
「横井さん、やっと優磨と付き合うことにしたの?」
「……すみません、鷹尾さん。耳の調子が凄く悪いようです、もう一度言ってもらえませんか?」
私が笑顔で鷹尾さんにそう答えると、彼は一瞬引き攣った顔をして「いえ、何でもないです」と目を逸らした。梨ヶ瀬さんから何を聞いたか知らないが、少なくとも今は上司と部下の関係のはずだから。
それにしても、鷹尾さんも周りに人がいることをよく考えて喋って欲しいものだ。もしこんな話を梨ヶ瀬さんの取り巻きが知ったら、今度はどんな言いがかりをつけられるか分かったものじゃない。ハッキリとした関係になるまでは、誰にも知られないようにしておきたい。
「でもさ……優磨が昨日からずごく機嫌が良くて。今朝も並ばないと買えない人気のパン屋のサンドウィッチを差し入れてくれて」
「へえ、そうなんですか。何か良い事でもあったんでしょうね」
鷹尾さんはまだしつこくこの話を続けようとするので、私は何も存じませんという顔で会話をぶった切ってやる。すると隣に座っていた眞杉さんの方がこれ以上は聞かない方が良いと気付いたらしく、鷹尾さんに違う話題を振って話を変えていた。
随分とご機嫌なのは良いが、これで私の返事が思っていたのと違ったらどうするつもりなのか。まあ、それはないと分かってるからそんなに浮かれてるんだろうけれど。
……はあ、それにしても面倒くさい。