唇を濡らす冷めない熱
「なに? 何の話しているの、俺もまぜてよ」
遅れてきた梨ヶ瀬さんがトレーを持って当たり前のように私の隣に座る。以前は隣に眞杉さんが座っていたはずなのに、いつの間にか席替えが行われていたらしい。
「いただきます」と手を合わせる梨ヶ瀬さんは、鷹尾さんが話していた通り確かにご機嫌だ。それに関して私から理由を尋ねる気は全くないけれど。
「そ、そういえば駅前に素敵なブックカフェが出来たんですよ! 私今日の仕事終わりに寄ってみようかと思ってて」
「え、じゃあ俺も行こうかな! 新しい本を探そうかなって思ってたところなんだよね」
横井さんがそう話すと、鷹尾さんがすぐに話題に食いついた。そうそう、鷹尾さんは梨ヶ瀬さんのことより自分の事を頑張ってください。
眞杉さんはそんな鷹尾さんに戸惑いながらも、小さく頷いて微笑んでる。どうやらこの二人の距離はゆっくりとだが、確実に近くなっているようで。
「へえ、鷹尾もやるじゃないか。俺たちも負けていられないね」
「さて、意味が分かりませんね。鷹尾さんと勝負がしたいのなら、梨ヶ瀬さんお一人でどうぞ?」
そう言ってニコニコと微笑む彼に、氷水のように冷たい言葉を頭から遠慮なくぶっかけてあげておいた。