唇を濡らす冷めない熱
梨ヶ瀬さんはこう言ったからには、私が部屋に入り鍵をかけるのを確認しなければ気が済まないに違いない。私はもう大きな溜息を隠すことも無く、取り出した鍵で玄関のドアを開けた。
ドアを開ければそこは私だけの城、何より落ち着く空間が広がっている。今まで数少ない友人しか招き入れた事の無い大事な場所だ。
私はすぐに部屋に入り、扉を梨ヶ瀬さんの顔が確認できるギリギリまで閉める。せめて気を付けて帰ってくださいくらいは言おうと思ったのに……
「残念、もう少しで横井さんのプライベートな空間を覗けるかと思ったのに」
もう……この人とあの緑パーカーの男性、本当にどっちがストーカーなんだろう? 自分はちっとも素の顔を見せる気はないくせに、こっちの隠したい部分には遠慮なく入ろうとしてくる。
とても厄介な男性だと思う、本当に。
「そうですか、梨ヶ瀬さんは女性の部屋なんて見慣れてるでしょう? わざわざ覗くのならもっと可愛い子に頼んでみるといいですよ」
嫌味をたっぷりと含ませてそう言えば、彼は楽しそうに目を細めて顎に手を当ててみせる。
「そうやってまず一番に自分がターゲットにならなくて済むよう誤魔化そうとするよね、横井さんは。そういうのって逆効果だって知ってる?」
……それって何が言いたいんです?