唇を濡らす冷めない熱
「アンタに心配してもらわなくても、俺の相手をしたがるヤツはいくらでもいる。これは寂しい横井さんのためのただのボランティアだよ」
話しているうちに気付いたのだが、伊藤さんは結構素は性格が悪く毒舌だ。もしかしたら元恋人だった主任の前では本性を隠してたのではないだろうか?
「相変わらず性格最悪ですね、長松主任もこんな捻くれた人のどこが良かったんだか?」
「……」
ほら、主任の名前を出した途端彼は何も話さなくなる。未練なのか後悔なのかは知らないけれど、とても分かりやすい人だと思った。
だからってこれ以上無駄なおしゃべりに付き合う気も起きなくて、さっさと彼の知りたがっている事を教えることにした。
「主任は今も御堂さんと何の問題なく暮らしてますよ、そろそろ結婚式の招待状でも来るんじゃないですかねえ」
「……ああ、そうか」
こうして主任たちの現状を教えると伊藤さんは少し安心したような声で、ちいさく「サンキュ」と言ってくる。彼なりに二人を引っ掻き回したあの時の事を、今も気にしてるのかもしれない。
「じゃあもういいですよね、私疲れてるんで切りますよ?」
どうせ彼の本当の用事はこれだけなんだって分かってる、直接本人たちに聞けないからこうして私を利用する。それだけだと思ってたのに……
「何かあった? アンタの声、いつもより苛ついてる」
どうしてよりにもよってこの人に気付かれちゃうのかなあ? 伊藤さん相手に悩み相談なんてする気ないんだけど。