唇を濡らす冷めない熱
必要ない、その心配
「おはよう、横井さん。昨日はあれからゆっくり休むことが出来た?」
昨日と変わらない完璧な作り笑顔で私に近寄り話しかけて来る梨ヶ瀬さん、その何か含んだようなものの言い方止めてもらえます?
近くにいた数人の女子社員が梨ヶ瀬さんの言葉に反応し、ヒソヒソと話し出す。変な噂の的になんてなりたくないのに……
「ええ、誰かさんが散々脅してくれたおかげでビクビクドキドキしながら眠りにつきましたよ」
これは半分本当の事、いくら私だって自分がストーカーされていると言われればそれなりに恐怖だって感じるに決まってる。
あの後の伊藤さんとの会話で少し気が紛れたけれど、なかなか寝付けないまま時間だけが過ぎていった。
「そうだろうね。ほらココのところ、隈になってる」
「ちょっ……、止めて下さい」
梨ヶ瀬さんが当然のように私に触れようとするから、つい彼の手を強く払ってしまった。しまったと思い謝ろうとしたけれど、梨ヶ瀬さんは気にした様子も見せず「ごめんね?」とだけ言ってデスクへと戻っていく。
こっちの意見をまるで聞かずにグイグイ来るかと思えば、こうやってあっさり引いていく時もある。梨ヶ瀬さんの考えている事は、私にはちっとも分らない。
デスクに鞄を置いて仕事の準備をしていると、スマホが震えてメッセージの受信を教えてくれる。画面を確認すると、メッセージの送り主は眞杉さんで……
『今日、横井さんに話したいことがあるから近くのファミレスに来てくれますか?』