唇を濡らす冷めない熱
「……それは横井さんの言う通りだね。じゃあ今日は眞杉さんの本音を聞き出せるように頑張って?」
軽々しく言われてちょっとイラっとする、その結果が鷹尾さんにとって絶望的なものだとしてもそんな笑顔でいられるのかしら。
「彼女が話してくれたからと言って、それを梨ヶ瀬さん達に伝えるとは限りませんから」
「もちろん、俺も鷹尾もそこまで眞杉さんの気持ちを無視するつもりはないよ。ただ……俺は可能性があると思って彼に協力してるのだけどね」
自分は何でも分かってるって顔をしないで欲しい、ここに昨日来たばかりのくせに。私が梨ヶ瀬さんを苦手だと思うのは、なんとなく人の事を見透かしたような雰囲気があるからかもしれない。
そういうのって、貴方に何が分かるのよって反抗したくなってしまうもの。
「じゃあ私は可能性が無いほうにかけてもいいですよ? 鷹尾さんには申し訳ないけど、眞杉さん凄い顔をしてましたから」
「へえ、それは面白そう。じゃあ賭けに勝った方は負けた方に何でも一つ命令出来る、なんてどう?」
ちょっと余計な事を言ってしまったかと思ったが、この勝負に勝てば余計なちょっかいを出すのはやめてと言う事が出来るかもしれない。
それならば、と思った私は……
「いいですよ、私が勝ったら梨ヶ瀬さんが言う事を聞く。梨ヶ瀬さんが勝った場合は私が言う事を聞く……決まりですね」
こうして私と梨ヶ瀬さんのよく分からない勝負が始まった。その当事者である鷹尾さんに協力する約束をすっかり忘れたままで。