唇を濡らす冷めない熱
「それで、眞杉さんの話って……あの鷹尾さんの事よね?」
眞杉さんと約束していた喫茶店、二人の注文を済ませると同時に私は彼女に詰め寄った。朝に梨ヶ瀬さんととんでもない賭けをした私は、眞杉さんが鷹尾さんの事をどう思っているのか知っておきたかった。
仕事を始めて冷静に考えたら、とても馬鹿な賭けをしてしまったと思う。協力しなければいけないのは鷹尾さんの方なのに、眞杉さんと上手くいかない方に賭けるなんて。
きっとあの時梨ヶ瀬さんは私の事を馬鹿な女だと思ったに違いない、そう思うと悔しくて……
「あの、そうなんですけど。横井さんには話してなかったんですけど、実は私……」
「嫌いなのでしょう、鷹尾さんの事が。そうなのよね? 彼に対してだけあんな態度だったもの」
眞杉さんが続きを言う前に、私が自分の希望を押し付ける。もしこれでそうでなかった場合、私はあの梨ヶ瀬さんの言う事を一つ聞かなくてはいけなくなる。
……怖い、梨ヶ瀬さんからどんな命令をされるのか想像もつかなくて。
「あの、横井さん? もしかして横井さんも鷹尾さんの事が……?」
「……はい?」
心配そうな目で私を見つめる眞杉さん、でも横井も? って聞いてきたと言う事はつまり……
自分の発言に気付いたのか赤い顔をしてもじもじとする眞杉さんを見て絶望を感じた。これ以上聞かなくたって私にも分かる、梨ヶ瀬さんとの賭けは負けが決まってしまったのだと。