唇を濡らす冷めない熱
結局……眞杉さんは地味な自分では人気のある鷹尾さんの隣に相応しくない、そう考えて彼の事を避け続けていただけらしい。
鷹尾さんからの一度目の告白以前から、眞杉さんも彼の事を隠れて見ていたそうで。
「そんなの鷹尾さんが気にしてなければ、それでいいんじゃないの? 彼は今の眞杉さんに好意を持っているんだから」
「そ、そんな訳には行きません! 鷹尾さんに憧れている女子社員がそれで納得する訳ないですし」
言われてみれば、私も心当たりがある。昨日からやたらと私に構いたがるイケメン課長の所為で女子社員にやけに睨まれるようになった。
眞杉さんは分厚い眼鏡をかけているし長い黒髪は三つ編みで、どちらかと言えば地味な女性。彼女と鷹尾さんが一緒に居れば、眞杉さんはなにか嫌がらせを受けるかもしれない。
「だから鷹尾さんとは付き合えない、眞杉さんはそれで構わないの?」
「だって営業部のエースなんですよ、彼。仕事だって雑用しかさせてもらえない、そんな私を好きだなんて一時の気の迷いかもしれませんし」
三年間の気の迷いって何だろう? さすがにこれは少し鷹尾さんが気の毒になってしまう。
なんだかんだと理由を付けて眞杉さんは鷹尾さんの気持ちに応えようとはしない。もちろんその方が私にとっては都合が良いはずなのに……
「眞杉さんは頑張ろうとは思わないの? 少なくとも鷹尾さんは眞杉さんのために努力をしてると思うけど」