唇を濡らす冷めない熱
「凄い顔してるよ、横井さん? どうしたのって聞いた方がいいのかな?」
昼食を終え黙々と午後の仕事を片付けていたけど、何度も梨ヶ瀬さんとの賭けを思い出しては頭を抱えていた。自分で言い出しておいて、思い切り自爆したなんて彼に知られたら恥ずかしさで死ねる。
それなのに梨ヶ瀬さんは朝と変わらない笑顔で私に話しかけて来る、全然この人が何を考えているのか分からない。
「女性に酷い顔とか失礼ですよ? それに梨ヶ瀬さんに話をしても何の解決にもならない事ですし」
「ああ、やっぱり横井さんは眞杉さんを放ってはおけなかったんだ。まあ、そんな事になるだろうとは思ってたけど」
やっぱり最初からこの人分かってたんだ。この会社には来たばかりのくせに、眞杉さんの隠した気持ちにまで気付くなんて……なんて観察力なの?
初めから勝負が見えていたくせに、私の賭けに何食わぬ顔をして乗って来たなんて。
「何もかもお見通しですよね、私だけが一人で喜んだり焦ったり落ち込んだりしてる」
「……否定はしないよ? 君が出した賭けの商品、俺には結構魅力的だったしね」
ジロリと恨みがましい目で睨んでも「勝負は勝負だから」と笑って返される。初めから百パーセント勝つんだって分かってる勝負は賭けとは言わない気がするけれど。