唇を濡らす冷めない熱
「……で、今日もついて来るんですか? 昨日の男性がいるかも分からないのに」
昨日より早い時間の電車の中、当然という顔で私の隣に立っている梨ヶ瀬さんがいたりする。それにしてもこの人って本当に考えている事が読めない。
正直な気持ちを言えば、こうして傍にいてくれるだけでも有難かったりする。いくら気の強い事ばかり言っていても、私だって不安を感じないわけじゃないから。
……しかもそれが全く知らないストーカー男だったりする。今のところ実害はないけど、警察に相談した方がいいのかもしれない。
「いつ現れるか分からないからだよ。でもある程度ストーカーの行動時間が分かれば、こちらからでも……いた」
梨ヶ瀬さんの呟きに気付きそっと周りに視線を巡らせる、ストーカでも昨日と同じ服装ではないでしょうし注意しなくては。
「今日は俺の斜め後ろ、白のシャツにチェックのスラックス。鞄が……」
梨ヶ瀬さんの後ろを不自然ではない程度に視線を巡らせていく、背の高い男性サラリーマンに隠れるようにしてストーカー男は立っていた。
「いますね、今日はこっち見てませんけどただの乗客って可能性は?」
「可能性は低いだろうね。そう思いたい横井さんの気持ちも分からないではないけど、きちんと状況を把握するのは大事だよ」
ぐうの音も出ない、梨ヶ瀬さんの言っている事は正しくて……なんだかんだで、私のためを思ってくれての発言だから。