唇を濡らす冷めない熱
「じゃあ仕方ない、これは横井さんへの宿題にしておくよ。後は、俺が考えた君のこれからのことなんだけど……」
私に近寄ってそう囁いたかと思えば、すぐに離れて元の場所で微笑んでる。梨ヶ瀬さんってこういう事、本当に慣れてるんでしょうね。
だいたい宿題って何よ、仕事でもないのに上司の言いたい事を考えてこいだなんて。
「その宿題はストーカーが解決した後でもいいってことですよね、では先に梨ヶ瀬さんの対策を聞かせてください」
「そうやって宿題自体無かった事にする気だろ?」
ジロリと睨まれたけど、私はそんな梨ヶ瀬さんに構わずさっきの話を続ける。知りたいのはこっちなんだから、勿体ぶらないでよ。
「まさか、梨ヶ瀬さんは自分の部下も信じられないんですか? それより早く教えてもらえません、何か考えがあるんですよね?」
「狡いね、こんな時だけ部下の立場を使うんだ?」
狡いと言いながら彼はそんな私の言葉を楽しんでいる。この人に教える気はないけれど、私のこういうやり取りは嫌いじゃない。
「何度も上司の立場を利用する梨ヶ瀬さん程ではないですよ、ほら早く!」
やれやれという表情の梨ヶ瀬さん、だけどスーツのポケットから紺の手帳を取り出すとその中の一頁を私に見せてくれた。