唇を濡らす冷めない熱
「まずは警察に相談だな、次にもしもの為の防犯グッズ。警察署には俺もついて行くつもりだし、防犯グッズは昨日のうちに注文済みだから」
ちょっと待って? 彼の言っている対策は正しいはずなのに、途中からいろいろツッコミたいところがあるのだけど。
「梨ヶ瀬さんが警察署について来るって言うんですか? 私と梨ヶ瀬さんのどこにそんな事をしてもらうほどの関りがあるんです?」
「部下を心配する上司のつもりだけど? それで横井さんが不満なら恋人同士って事にしようか?」
冗談じゃない! 梨ヶ瀬さんはどこまで本気で言ってるんだか分からないし、この人に恋人役なんて頼んだら後々大変な事になるに決まってる。
「いいえ、結構です! 部下思いの上司に恵まれて私は幸せですね」
嫌味たっぷりにそう言えば、梨ヶ瀬さんは楽しそうに笑う。本当にこっちが何をしても少しも効き目がないのが悔しい。
「凄い棒読みだね、横井さんが学生時代演劇部だったなんて信じられない。まあ、そういうところが面白いんだけど」
「私は裏方だったので、演技はやってない……って、なんで私が演劇部だったことまで知ってるんですか!」
私は裏方だったこともあり、あまり周りに演劇部だった事は話してない。どこでその事を知ったのかが不思議だった。