唇を濡らす冷めない熱
初めてって言った? 恋愛なんて当然百戦錬磨ですよ、って顔をしてるこの梨ヶ瀬さんが? 信じられないと思って彼を見上げれば、梨ヶ瀬さんは私の口の唇に触れないギリギリに人差し指を立てて……
「秘密にしておいてね? こんなの横井さんにしか話したこと無いんだから」
ううう、この人の綺麗な顔が憎い。梨ヶ瀬さんにとって私のような恋愛経験の少ない部下を揶揄う事なんてきっと簡単に違いない。
そう分かっているのに……この顔に、この声にこの瞳に振り回されそうになっている。
「そうですか、私に関係ないことなので誰にも話したりしません。ご安心を!」
私は梨ヶ瀬さんの指を手で払って、少し彼との距離を空けた。このまま傍にいればこの人に誘惑されてしまいそうで。
止めた方がいい、絶対危険。梨ヶ瀬さんは私の手に負えるような男性じゃない。そう自分に言い聞かせなきゃ、心の奥がグラグラしてしまいそうだから。
「すぐに態勢を立て直しちゃうよね、そういうところも横井さんの魅力の一つだけど」
余裕だ、何を言われても私にどんな態度を取られても……焦った様子も困った顔も見ることは出来ない。それが妙に私を苛立たせる。
「部下を揶揄わないで、さっさとさっきの話の続きしてもらえます? すぐに他のアパートを探すなんて無理……」
「そうだな……じゃあ、少しの間だけ俺のマンションに来るのはどう?」