唇を濡らす冷めない熱
いつ見ても完璧なその微笑みに、ほどんどの女性が彼に頷いてしまうのではないかと思ってしまう。それくらいの魅力がこの人にはある。
それでも私が梨ヶ瀬さんの言葉と笑顔に騙されたりするわけもなく……
「嫌ですよ、他に住むところがなくなっても梨ヶ瀬さんのマンションなんてごめんです」
これは本音。きっと梨ヶ瀬さんの住むマンションはすてきなんでしょうけれど、自分がその空間に入り込みたいだなんてほんの少しだって思ったりしない。
何を考えているのか分からないこの人との共同生活だなんて、物凄く大変に決まってる。
それなのに、今回に限って梨ヶ瀬さんは意外としつこくて……
「じゃあさ、ストーカー問題が解決するまで俺が横井さんの部屋に住み込んで守るってのは?」
「はあ? 冗談はやめてください。私の部屋に梨ヶ瀬さんなんて、そんなの無理に決まってるでしょう」
きっと広い部屋に住んでいる梨ヶ瀬さんには、私の狭い部屋なんて想像できないんだ。そういう事にしてこの話をさっさと終わらせようとしたのに……
「横井さんの部屋が狭いからというなら、俺のマンションで諦めて。さっきも言ったけれど、君に何かあったりしたら……多分、俺がどうにかなる」
どうしてですか? とは聞いちゃいけない気がした。だって本気なのか冗談なのかも全然わからないんだもの、もしかしたら大事な部下だからなんて理由かもしれない。
こうして相手に変な期待をさせるのが得意なのだろうか、梨ヶ瀬さんは。