唇を濡らす冷めない熱
「教えて素直に横井さんが来るとは思えないんだけどな、自分で連れて帰った方が安心出来そうだしね?」
連れて帰るって、私の家はここですから。そんな事を言ってもきっとまた軽く言いくるめられてしまうだろうから口には出さないけれど。
もう何も言い返さずに黙々と荷物をまとめていく。こっちが静かにしてれば梨ヶ瀬さんも大人しくしてくれるはず、そう思っていたのが甘かった。
「これは大学生の頃かな、横井さん意外とロングも似合うね」
「ちょっと! なに勝手に人のアルバム見ちゃってるんですか!?」
梨ヶ瀬さんの意味深なつぶやきに慌てて振り返ると、彼は私の本棚から勝手にアルバムを取り出し眺めているではないか!
冗談じゃない、その中には私の野暮ったい高校時代の写真まで残っているというのに。
「返して! いくらなんでも怒りますよ、私にだってプライバシーってものが……え?」
「ここ写ってるね、あの男」
取り返そうとしたアルバムを目の前に出され、その一点を指差される。そこには間違いなくあのストーカーの男性の姿がはっきりと写されている。
でもこれは数か月前の社員旅行の時に撮ったもので……
「そんな、どうして……?」
梨ヶ瀬さんに言われるまで全く気付かずにいたけれど、私はそんなに前からこの人に付きまとわれていたの? 一気に体が冷たくなるような気がした。