唇を濡らす冷めない熱
「俺の部屋はこのマンションの八階、もう覚えれたよね?」
「……ええ、まさかこのマンションとは」
連れてこられたマンションは、行きつけのスーパーのすぐそばでオシャレで素敵だななんていつも思っていた建物だった。ココによりにもよって梨ヶ瀬さんと暮らすことになるなんて思いもしなかった。
いまだ彼に持たれたままの私の荷物、この手には梨ヶ瀬さんの通勤カバンだけしか渡してもらえなかった。
「その鞄の中にあるキーケースを取り出して、オートロックを解除してくれる?」
梨ヶ瀬さんに言われるまま鞄を開けてキーケースを取り出す。ハムスターのマスコットのついたそれに驚きながらも、そのカギでオートロックを解除した。
……梨ヶ瀬さんってハムスター好きなのかな? 意外だと思いながら鞄にキーケースを戻しさっさと先を歩いていく彼の後を追った。
エレベーターで八階まであがり一番端の扉へ、今度は部屋の扉の鍵を開けるよう頼まれてもう一度キーケースを取り出した。
「あ、もしかして彼女とか……?」
こんな可愛いマスコット、もしかしたら特別な相手からのプレゼントだったり? そう思って顔を上げると微妙な顔をした梨ヶ瀬さんと視線がぶつかった。
「いないからね、彼女なんて。ここまでついてきておいてその誤解っておかしいでしょ」
梨ヶ瀬さんはスーツケースを置いて、その手をグーにすると私のおでこをコツンと叩いた。痛くはないのだけど、どうして私が怒られているのか分からない。