唇を濡らす冷めない熱
「そういう梨ヶ瀬さんはいつでも余裕ですよね?」
まるで手のひらで転がすように私を操って、結局最後は彼の思い通りにしてしまう。扱いにくいはずの私をこんなにも容易く、笑顔のままで……
「そうでもないけど? まあ……カッコ悪いのは見せたくないよね、特に気になってる相手には」
「へえ、そうなんですか。梨ヶ瀬さんでもそういう事考えるんですね、意外でした」
こんな癖のある男性を夢中にさせるような女性とはいったいどんな人なんだろう?
この人がその相手にどんなふうに愛を囁いたりするのか、残念なことに想像もつかない。
「……横井さんのその反応ってわざと? それとも天然?」
ちょっと困ったような笑みを浮かべる梨ヶ瀬さんは、その私への問いかけで何かを試そうとしているみたい。
「少なくとも天然と言われることはありませんね、勘が鋭い方だとはよく言われますが」
これでも他人の微妙な変化にはよく気が付く方だと思ってる。逆に天然だと言われるようなことはほとんどなく、気の強さも手伝って可愛げのない女にみられることが多い。
それなのに……
「ふーん、その割には自分のことには随分鈍いように見えるけど?」
「どこがですか? 梨ヶ瀬さんの言う事っていまいち分かりにくいんですけど」
もちろん彼がわざとそんな言い方をしているのは分かってる、梨ヶ瀬さんの言葉に含まれた私に対してのそれも何となく気が付いてはいるが……私はあえて知らないふりをしている。
そうやって鈍感な女を演じて何もわかってないように見せていないと、きっと本気を出されたらこんな状況の私なんか簡単に流されてしまうから。