唇を濡らす冷めない熱
「あはは、本当にいいね。横井さんのそういうところ退屈しない、君と一緒だとこれから毎日が楽しくなりそう」
「私は構わないでくれたほうが嬉しいんですけど? 楽しいのはきっと梨ヶ瀬さんだけですし」
私が誤魔化そうとしたこともバレているのかもしれない、梨ヶ瀬さんはわざと問い詰めるようなことはせずこの会話を楽しんでいるようだった。
意味深な言い方で私を揺さぶろうとする梨ヶ瀬さん、早く私みたいな平凡な女から興味をなくしてくれるといいのだけど……
「ああ、そうかもね。俺って結構自分優先で物事を考えがちだし、楽しいことが大好きだから」
そう言った梨ヶ瀬さんの言葉に少し違和感、相変わらず彼の瞳の奥は笑っていないように見えるのは私だけ? これがこの人の本心だとは思えなかった。
「梨ヶ瀬さん、あの……」
「横井さんはこの部屋を使ってくれる? ここにある荷物はすぐに寝室に移動するから」
六畳ほどの洋室、端にいくつかの段ボールが置かれている。そう言えば梨ヶ瀬さんもまだこちらに越してきたばかりのはず、彼もまだ引っ越しの整理がすべて終わってなかったのかもしれない。
「君の布団は注文済みだから明日には届くと思う、それまでは寝室のベッドで————」
「あ、大丈夫です。私はリビングのソファーで一人で寝ますから」
これ以上余計な事を言い出されては困る、さっさとその話は終わらせて梨ヶ瀬さんが持ったままの荷物を奪おうとした。