唇を濡らす冷めない熱
梨ヶ瀬さんと話しているといつだってそう、こっちが優位に立っていると思ったら次の瞬間にはひっくり返されている。私がどれだけ頭をひねっても、最後はいつも彼の思い通りになってばかり。
何度も年上の余裕を見せつけられて、敵わないと思い知らされると余計に焦ってしまう。
「そういうハッキリした言い方はしないんです、これでも相手に気を使うタイプなんで!」
曖昧な自分の気持ちを誤魔化すように慌てて否定すれば、この人にはすぐにバレてしまうって分かってる。でも黙っていれば梨ヶ瀬さんの良いように受け取られると思い、言い訳してみたけれど……
「うん、横井さんは人に気を使うから逆にハッキリ言ってくれるタイプだよね。君のそういうところも俺は気に入ってるし」
「なんで……そういう事ばっかり」
私の言葉で梨ヶ瀬さんを誤魔化せるはずもなく……正しく訂正され、その上で私に気を持たせるようなことまで言ってくる。
ああ、どうすればいいのだろう? どんな言葉を返せばこの人と対等に渡り合うことが出来るの?
「言わなくても分かるでしょ? それともちゃんと言葉にしてほしいタイプなの、横井さんは」
どうして私が梨ヶ瀬さんからの告白を待ってる前提なんです? 私は貴方とそういう雰囲気になりたくなくて必死で誤魔化してるっていうのに。
そういう梨ヶ瀬さんこそ、そんな私の気持ちに気付いてるくせに、なぜ遠慮なく私を追い詰めようとするんですか?