唇を濡らす冷めない熱
「梨ヶ瀬さんのそういうとこ、私は嫌いですけどね。仲良くなった女の子から意外と性格悪いねって言われません?」
彼の質問に素直に答える気なんて少しもない、遠回しな言葉なんて全て聞かなかったことにしてしまえばいいのだから。
……私は余裕綽々のその笑顔に、易々と捕まってあげたりしないわ。
「よく分かるね、さすが横井さん。目当ての子にはいつも意地悪だって言われるんだ、本当にどうしてだろうね?」
わざわざ私が言わなくても自分で分かってるでしょうに、一々聞いてくるところにまたイライラしてしまう。
さっさとこの話題は終わらせてしまおうと、梨ヶ瀬さんからスーツケースとボストンバッグを奪い取り中身を取り出し片付け始める。
「俺も手伝おうか?」
「私が貴方にお願いすると思ってます?」
親切心よりも興味や好奇心ばかりであろう梨ヶ瀬さんを部屋から追い出すために、わざと冷たくそう言ってみせた。
これくらいでは鋼の心臓の持ち主である梨ヶ瀬さんは何ともないでしょうしね。
「そう? じゃあ俺は先に風呂を沸かしてくるよ。あらかた片付いたら入ってね」
私の言葉を気にした様子も見せず、彼は笑顔のまま部屋を出てバスルームへと向かった。彼が離れたことで緊張が和らぎ、肩の力が抜ける。
決して梨ヶ瀬さんの事が嫌いなわけじゃないのに、彼と一緒に居ると妙に気を張ってしまう。
「これから本当に大丈夫かなあ……」
真っ白な天井を見上げて、何となくそう呟いた。