唇を濡らす冷めない熱
「おはよう、昨日はよく眠れた?」
リビングに行くとテーブルに白いお皿を並べながら梨ヶ瀬さんが声をかけてくる。黒い腰巻エプロンがとても似合っているところが梨ヶ瀬さんって感じがする。
朝から朝食を用意するイケメン、職場の女の子が知ったらきっと羨ましがられるんだろうけれど……
「おはようございます。お陰様でいつベッドに入ったのかも思い出せないほどぐっすりと」
昨日あれだけ疲れていたのは梨ヶ瀬さんの強引な提案のせいでもあるんだから。ちょっとくらい嫌味な言い方をしたって許されるはず。その程度の気持ちだったのだけど……
「あはは、それはそうだよ。昨日横井さんをベッドに運んだのは俺なんだから」
「……はい?」
今、梨ヶ瀬さんはなんて言った? 俺が横井さんをベッドに運んだ、だって?
確かに私は部屋でスマホを見ていた後の記憶がない、でもまさかそんな事って……嘘よね、いつもの梨ヶ瀬さんのタチの悪い冗談だと言ってほしい。
「あ、俺が嘘を言ってるって思ってるでしょ? 何なら今、昨日と同じように君をお姫様抱っこで運んであげようか?」
「お、お姫様抱っこぉ!?」
梨ヶ瀬さんの言葉でクラっと眩暈がして倒れそうになる。私は今まで一度だってそんな事を男性にされたことも無かったし、これからだってされるつもりもなかった。