唇を濡らす冷めない熱
そのままその場で蹲り頭を抱える、もうどんな顔で梨ヶ瀬さんを見ればいいのか分からないわよ。それなのに梨ヶ瀬さんはそんな私の様子を気にすることなく、遠慮なくその話を続けてくる。
「俺の理性を褒めて欲しいくらいだよね。ぐっすり眠って無防備なうえに肌をさらけ出されて、しかも行きつく先はベッドなんだから。それとも……あれが横井さんの誘い方だったりするの?」
「そんなわけないでしょう! いくら経験が少なくったってもう少しマシな誘い方くらい……って、そんな話じゃなくて!」
もう、梨ヶ瀬さんと話してるといっつもそう。最初は自分のペースで会話が出来ていてもあっという間に主導権は梨ヶ瀬さんに握られてしまってる。
結局は話す必要のないことまで白状させられて、彼にまた一つ弱みを掴まれることになっちゃってる。
「へえ、それは未来の楽しみが増えたな」
「……今のは聞かなかったことにします」
焦って大げさに慌てて見せても梨ヶ瀬さんの思う壺だ、こんな時は大人の女らしく冷静に聞き流してしまえばいいのよ。
そんな私の様子をクスクスと楽しそうに見ている梨ヶ瀬さんを、一発ぶん殴りたい気分になりながら立ち上がりテーブルへと着いた。
……だけど彼の作ってくれた朝食は意外なほど優しい味付けで、私は綺麗に完食してしまった。