唇を濡らす冷めない熱
結局悶々としたまま午前中の仕事を終えると、鞄から財布を取り出し社員証を持って食堂へと向かう。お弁当の日もたまにあるけれど、主任たちがいなくなってからは食堂を使う事が多くなった。
人が多くならないうちに選んで社員カードで会計を済ませると、いつもの決まった席へと座る。いつもこのテーブルにつくのは私とあと一人……
「今日も早いですね、横井さん」
「おかげさまでね、昔から並ぶのは苦手なの」
真っ黒なストレートのおかっぱ頭、そして顔には大きな瓶底眼鏡。地味の代表みたいな容姿をしたこの女子社員は、最近仲良くなった眞杉さん。
一度なんとなく話しかけてから、彼女も毎日のようにこの席に座るようになった。
「そうですね、そういうの横井さんらしいですけど。あら、なにかしら……?」
眞杉さんが視線を向ける先、食堂の入り口に何人もの女子社員がきゃあきゃあと騒いでいるようで。私もその騒がしい女子の群れを眺めていると、その真ん中にニコニコと笑う梨ヶ瀬さんの姿。
……うわ、何よあれ? 見なきゃよかった。
すぐに梨ヶ瀬さん達から視線を外し、食べ途中の昼食に目を向ける。さっきまで美味しそうにだった昼食のはずなのに、なんだか胃がむかむかしてくる気もして……