唇を濡らす冷めない熱
ええと、これは梨ヶ瀬さんのいつもの冗談? それともちょっと独占欲強めな彼の本音だったりするの? そのどちらにしても……
「もしかしてヤンデレなんですか、梨ヶ瀬さんって」
余裕綽々なところばかり見せるくせに、私を閉じ込めたいだなんて性格だけでなく愛情表現まで歪んでいるの?
もちろん私は素直に閉じ込められてあげる気なんてない、それくらい彼だって分かっているでしょうに。
「俺が真面目に話してるのに、そんな風に茶化さないで」
茶化したつもりなんて無かったのに、真剣な顔をした梨ヶ瀬さんにピシャリと言われてしまった。じゃあこんなこと言われて、私はどう答えればいいのよ。
「分かってますよ、それくらい。ただ、私も貴方に一言だけ言わせてもらっていいですか?」
「……何?」
「さっきは、資料室に助けにきてくれてありがとう……」
本当は彼が来てくれてすぐに言おうと思ったの、だけど梨ヶ瀬さんはすぐに私をここに引っ張って連れてきたから。
言うタイミングを逃した感謝の言葉は、言うのが少しテレくさくて……
「……はあ、やっぱり横井さんは狡いよね」
私に負けないくらい梨ヶ瀬さんは耳を赤く染めてそっぽ向いてそう言った。時には余裕のないこの人を見るのも、そう悪くない。