唇を濡らす冷めない熱
「で、結局何のために私をこの部屋に連れてきたんです? 梨ヶ瀬さんは私が怪我一つ無いって気づいてたんですよね」
まさかお説教の為だとか? それなら資料室で済ませてもらいたかったわね、こっちは私の部署から少し離れてるし。ブツブツとそんな事を考えてたら……
「君がさっきので、ショックを受けてたら休ませなきゃって思って」
「……え?」
さっきのって、閉じ込められたことよね。梨ヶ瀬さんは私がそれで精神的なダメージを受けてないかと心配してくれたの? 貴方ってそんな過保護な人だった?
「……そう考えてたけど、全然必要なかったよね。横井さんそういうとこ図太そうだし?」
にっこり笑顔でそういう梨ヶ瀬さん、自分が嫌味を言うのはOKなんですか? さっきのは前言撤回、彼の場合は過保護なんかじゃなくただの気紛れに違いない。
「ええ、梨ヶ瀬さんの性根の歪み方には負けますけど。お互い様ですよね?」
「そうだね、でもそれって意外と相性良さそうだと思わない?」
「全く思いませんね。では、先に部署に戻らせていただきます」
言われっぱなしでいるつもりはない、そう言われたらこう返すだけ。そしてまた梨ヶ瀬さんの本気か冗談か分からない遠回しな言葉を聞き流して、彼を置いてけぼりにして仕事場に戻る。
それでも、助けに来てくれた時の梨ヶ瀬さんは普段よりカッコよく見えたのは、彼には絶対黙っておくことにしようと思った。