唇を濡らす冷めない熱
「あ、横井さん無事だったんだね? さっきは梨ヶ瀬が血相を変えて走って行くから、君に何かあったのかと……」
梨ヶ瀬さんから離れ、部署に戻る途中で鷹尾さんに出会う。
鷹尾さんが私のことを梨ヶ瀬さんに知らせてくれたおかげで、資料室の件が大事にならずに済んだのよね。彼には一言お礼を言わなければと思っていたので、ここで会えて良かった。
「はい、鷹尾さんのおかげで助かりました。梨ヶ瀬さんがすぐに来てくれたので、私も怖い思いをせずに済んだんです」
感謝の気持ちを込めて深々と頭を下げる。梨ヶ瀬さんには素直な行動はとれないのに、鷹尾さんには自然にお礼を言えるから不思議。
「今度きちんとお礼をさせていただくので、受け取ってくださいね?」
そう言って微笑んで見せると、鷹尾さんは何かを思いついたような顔をした。そのまま私のっ両手を掴んで……
「あの、鷹尾さん?」
鷹尾さんは梨ヶ瀬さんよりも体格が良い、流石にこんな力強く掴まれると手を取り返すことが出来ないんですけど……
「お願いします、俺たちと横井さん達で遊園地でダブルデートしてください!」
「……はい?」
俺たち、とはどの俺たちのことでしょうか? 横井さんたちのもう一人は間違いなく彼の想い人である眞杉さんだという事は分かるんだけど。