唇を濡らす冷めない熱


「つまり……俺と眞杉(ますぎ)さん、梨ヶ瀬(なしがせ)横井(よこい)さんで一緒に遊園地に行ってほしいんだ。眞杉さんも横井さんと一緒なら来てくれるかもしれないし、頼むよ! 君が来ればあの梨ヶ瀬に借りも作れて一石二鳥なんだ」

「は、はいぃぃぃ~?」

 一気に言われてこっちの情報処理が間に合わない。私は眞杉さんを誘う役目のはずなのに、それでどうして梨ヶ瀬さんに借りが作れるの?
 しかもダブルデートと言う事は私の相手は梨ヶ瀬さんってことになるのよね? さっきまでの彼とにやり取りを思い出し、一気に気が重くなる。

「それ、断っちゃだめですか……?」

 非常に申し訳ないとは思っているが、出来ればこれ以上梨ヶ瀬さんとの接点を増やしたくない。遊園地に行って二人の距離を縮めたいとも思わないし……
 鷹尾(たかお)さんと眞杉さんの進展に協力するとは言ったものの、自分と梨ヶ瀬さんのことは放っておいてもらいたいし。

「そんなこと言わないでよ。協力してくれるって言ったよね、今さっきお礼してくれるって言ったよね? だったらお願い、俺にチャンスを!」

「ええぇぇ~っ」

 鷹尾さんに必死の形相で頼まれて、しかもハイと言うまで彼は私を離す気は無さそう。もともとお願いされることに弱い私は、これ以上鷹尾さんの頼みを無視する事も出来ず……

「わ、分かりました。私も参加させてもらいますから! だから頭を上げて、手を離して」

「ありがとう、横井さん!」

 顔を上げると満面の笑みの鷹尾さん、すぐに言った事を後悔しそうになったが彼と眞杉さんの為だと自分を納得させ職場に戻った。


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