唇を濡らす冷めない熱
隠さない、その喜び


鷹尾(たかお)からダブルデートを頼まれたんだって? つまり横井(よこい)さんのデートの相手は俺だよ、よくOKしたね」

 今日の仕事をしっかりと終えて、私が帰る時間に合わせて帰る準備を始めた梨ヶ瀬(なしがせ)さんと駅まで歩いてる。
 鷹尾さんとの話が済んで部署に戻ると、そこにはもう梨ヶ瀬さんが帰ってきていて。部署の社員を自身の周りに集めて何か話をしていた。
 ……あれから嫌がらせはピタリと止んで、良かったんだけど。

「断れる状況じゃなかったですからね、鷹尾さんも意外と手強いですし。梨ヶ瀬さんも無理せず断ってはいかがですか?」

「うん、何の冗談? こんなチャンスを俺が潰すわけないでしょ、もしかして横井さんのそれって照れ隠し?」

 忘れていたいのにこうして梨ヶ瀬さんが話題にするから、嫌でも彼との遊園地を想像してしまう。もういっそ、眞杉(ますぎ)さんを攫って逃げてしまおうかなんて考えているくらい。
 鬱陶しい梨ヶ瀬さんの言葉に、どっと疲れてしまう。どこをどう聞けばこれが照れ隠しに聞こえるんですか!

「相変わらずのプラス思考で本当に羨ましい。そういう梨ヶ瀬さんは今回の話がとても嬉しそうでなによりです」

 思い切り嫌味で返してやった、これで少しはスッキリするかと思ったのだけど……

「うん、鷹尾が気を利かせてくれて本当にラッキー。こうして横井さんとデートが出来るんだし嬉しくて当然だよね」

「なっ……!?」

 いきなり何を言い出すのよこの男は、今まで中途半端に気のあるふりしかしなかったくせに。そんな事を言葉にするなんて反則だ!


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