唇を濡らす冷めない熱
「や、やめてくださいよ、そういうの! 対応に困ります」
普段の梨ヶ瀬さんも苦手なタイプではあるけど、こんな風に普段言わなそうなことを言葉にしてくる彼はもっと苦手だ。
捻くれてるくせに、こんな時にだけ素直にならないで。仮面被ってるくせに、私に素顔を見せようとしないで。
そう言いたいのに……
「へえ、横井さんにはこういう攻略法が良さそう。勝手に駆け引きしていた俺は間違ってたんだな」
そういうのばかり目敏く気付かないで! 駆け引きされても、されなくても私は攻略される気なんてありませんから。
理由は分からないけれど、今日の梨ヶ瀬さんはとにかく機嫌が良い。私がどれだけ彼を睨んでも、一向に動じない。
「攻略法って……恋愛もゲームみたいな感覚ですか、梨ヶ瀬さんは」
しっかりと「モテる男は違いますね」という嫌味も付けて言ってみる。もしそうだとしても、この人ならほとんどの《《ゲーム》》を楽々クリアーしてしまうのだろう。
……私は、そのうちの一つにはなりたくない。
過去の恋愛は引きずらないタイプだが、だからといって綺麗な恋愛ばかりしてきたわけでもない。何度も言われたお決まりの別れの言葉に傷つかないわけじゃない。
わりとミーハーなフリもしてるけど、本当は恋愛に消極的になっている。だから梨ヶ瀬さんのように気持ちが読めない男性と恋愛なんて本当に考えられないの。